AutoExeオリジナルセッティング。ストリートベスト仕様の機械式。
コーナリング時や滑りやすい路面などで、左右の駆動輪に有効なトラクションを分配、伝達する機械式(多板クラッチ)リミテッドスリップデフは、実績あるCUSCO製をベースに使い勝手や快適性に配慮したAutoExeオリジナルセッティングを施した。
作動方式はアクセルON時に100%、アクセルOFF時に50%を効かせる1.5Way。ドライブ側カム角を35~45°、トルクバイアス比をドライブ側で4.0~6.0に設定。イニシャルトルクは、40.8~51.0N-mとし、ダイレクトな作動フィールと確実なトラクションを獲得。FR車らしいハンドリングを際立たすアイテムである。また、ストリート走行に配慮し、チャタリング(クラッチ板が滑る時の金属音)を極力抑えた仕様としている。製品に指定LSDオイルを付属。
以下は、その「狙い」と「技術」の概要。ほとんどの読者にはブラックボックス的存在のデフだから、そのメカニズムはイメージし難いと思われるが、もしもデフのチューニングを考えるなら、原理的な部分だけは理解しておいた方がいい。設計の意図によって、使い勝手が大きく変化するからである。
先ずは基礎知識だが、そもそもデフというものは、車両の旋回時に駆動する外輪と内輪の回転速度を変えるためのものである。何故なら、図のように一定の角度を旋回した場合、内外輪の描く軌跡の半径が異なるからだ。当然、外輪は内輪より長い距離を進まねばならず、速く回転する必要がある。そうでないと(同じ回転速度だと)、内輪はスリップして過大な回転を消費しなければならず、スムーズな旋回ができなくなるのだ。要するに、デフとは駆動輪に回転差を与えるためのメカニズム。だから日本語でも「差動装置」と訳されている。
もちろん、直進時には差動の必要はないし、差動しては困る。駆動輪に回転差が生じれば、それによって進行方向が変わってしまうからだ。では、デフはどのようにして「旋回時」を認識するのか。その判断の基になるのは、路面からの抵抗である。
図を別の視点で見てみよう。内輪の回転半径が外輪よりも小さいということは、内輪は外輪よりも急なカーブを曲がっていることになる。だから、回転半径の違いにより、車輪の回転方向とタイヤの進行方向のずれが大きくなり、その分だけ抵抗も増えることになる。旋回時には、内外輪の駆動抵抗に差が出るのだ。だから、この差を検出した時に差動機能を作動させればいい…ということになる。このようなパッシブ(受身的)な作動がデフの基本。だから、実際の走行状態では問題が残ることになる。低速での車庫入れなどの実用面ではOKだが、「路面からの抵抗の差」は必ずしも旋回半径だけで決まるわけではないからだ。例えば、高速コーナリングではロールによる荷重移動が起きて、内輪側タイヤの接地圧が減り、路面からの抵抗が減少する。悪路や凍結路などでは、直進時でも左右の路面状態に差が出て、抵抗に差が出る場合もある。そのようなシチュエーションで、いちいち駆動輪の差動機能が働いては困るのだ。少なくとも運転を愉しむという立場からは、歓迎できる特性とは言えない。そこで、差動状態を排除しようとして開発されたのがLSDである。文字通り、差動機能を制限したデフなのだ。
実際のシーンにおいては、タイトコーナーを比較的ハイスピードで走りぬけようした時に、コーナリングGによって次第に車体が外側へロールしてゆく。これによって、駆動輪の外輪に荷重がかかり、内輪は荷重が減少する。そして、最終的には外輪側の抵抗の方が大きくなる。すると、差動機能が逆に働いて、内輪側の回転数が高くなり、極端な場合は空転を始めることとなる。この時、内外輪への駆動力の配分が等しいノーマルのデフ(オープンデフ)では、抵抗の大きい外輪はまったく回転できなくなってしまう。だから、アクセルを踏み込んでも、内側駆動輪が空転するだけで前に進まない状態が生じる。車を前に進めるトラクションが発生しないのである。
そこでLSDが必要になるという理屈だ。内外輪の回転数またはトルクの変動を感知して差動機能を弱め、グリップのある外輪へのトルク配分を高めるのが使命である。ただし、片輪が空転するというのは極限の状態であって、実際には、効き始めからどのような過渡特性にチューニングするかが、個別のLSDの設計意図となる。競技車両のようにコーナーでの加速だけを重視するなら、多少の操縦性の悪化は承知の上で「より早い段階から、より強く」効かせればいいし、エマージェンシーからの脱出だけを狙うなら手動切り替え式のデフロックという手もあるのだ。
一口にLSDと言っても最近では、多種多様なタイプがあり、一般的には「回転差感応式」と「トルク感応式」に大別される。それぞれ、車両の駆動方式や使用目的によって使い分けをしている。回転差感応式を採用の代表例として、ビスカスタイプ(ビスカスカップリングの内部にシリコンオイルが封入されており、そのシリコンオイルのせん断力を利用して差動制限を行う)のLSDがあり、特にFF車に採用されるケース多い。目的は主に、極端な低ミュー路、例えば、雪道などで左右輪に大きな回転差が生じた場合などに有効とされる。
トルク感応式は、FR車に採用される場合が多く、その機構は様々なものがあるが、FRスポーツカーに採用されるものは、概ね、複数のギアを組み合わせてその歯面抵抗を利用して差動制限するもの(スーパーLSDやトルセン式)が主流である。
今回、私たちが採用したLSDは、多板クラッチ式構造のいわゆる機械式である。このタイプは、最近では量産LSDとして採用される事は無くなったが、モータースポーツの世界では、今も必需品として第一線で活躍している。その理由は、用途に合わせたプレッシャーリングのカム角の変更と、クラッチ板の枚数の選択で、「トルクバイアス比」※と「イニシャルトルク」を自在に設定可能で、差動制限の発生レスポンスに優れているからである。(※トルクバイアス比=高μ側トルク÷低μ側トルク)
トルクバイアス比が大きいということは、内外駆動輪へのトルク配分比をより大きく変化させて、グリップのある方のタイヤにより大きなトラクションを与えられるということ。量産LSDのトルクバイアス比は、2.0~3.0程度で、LSDの効きを意識させない万人向きのマイルドな仕様となっている。だが、それでは積極的に運転を愉しむことはできない。私たちは、評価テストの結果、トルクバイアス比を4.0~6.0に設定した。さらには、イニシャルトルクの設定を量産より高めの40.8~51.0N-mとすることで、例えば、片輪が完全にグリップを失い差動ギアによって空転してしまう場合においても、グリップがある側、すなわち、空転していない側のタイヤに、このイニシャルトルク値分のトルクを伝達する。また、差動制限の開始へのクイックな反応も期待できる。イニシャルトルクの設定方法も様々な手法があるが、プレッシャーリングの内側からコイルスプリングにより発生させることにより、従来型のクラッチ板外側のコーンスプリングの反力によるイニシャルトルクと異なり、多板クラッチを常に与圧していることで、差動制限の発生タイミングが早くなるのだ。
結論をいえば、私たちのLSDは、決して唐突ではなく、操縦性を激変させることもなく、なおかつ効きを確実に実感できる・・・ステアリング操作のみならず、積極的なアクセルワークでクルマの姿勢をコントロール出来るストリートベストな過渡特性にチューニングしている。無論、サーキット仕様のように、ひたすらトラクション性能だけを追求した過激な仕様でないことは云うまでもない。量産仕様との比較を下表にまとめたので参考にしていただきたい。
仕様 | イニシャルトルク (N-m) | トルクバイアス比 ドライブ側 | トルクバイアス比 コースト側 | カム角 ドライブ側 | カム角 コースト側 |
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AutoExe / 機械式 / 1.5Way | 40.8~51.0 | 4.0~6.0 | 1.5~2.0 | 35~45° | 15~20° |
量産 RX-8 SE3P / スーパーLSD / 2Way | 39.2 | 2 | 2 | - | - |
量産 RX-7 FD3S / トルセンLSD / 2Way | - | 2.6~3.0 | 2.6~3.0 | - | - |
量産 ロードスターNDERC / スーパーLSD / 2Way | 49 | 2 | 2 | - | - |
量産 ロードスターND5RC / スーパーLSD / 2Way | 49 | 1.8 | 1.8 | - | - |
量産 ロードスターNCEC / スーパーLSD / 2Way | 39.2 | 2 | 2 | - | - |
最後に、マニアックなメカ派のために、私たちの多板式クラッチ型LSDの差動発生原理について少し触れる。左右のドライブシャフトに直結しているそれぞれのサイドギアの内側に、4個のピニオンギアがピニオンシャフトに設置されている。
左右のサイドギア、すなわちドライブシャフトにトルク差がない場合は、ピニオンギアはフリーな状態で、回転し始める事は無い。これに対して、左右にトルク差が生じると、サイドギアにトルク差により回転差が生じて、4個のピニオンギアが回転を始める。この時、トルク差に応じてピニオンシャフトがプレッシャーリングのカムを押し広げる方向に力を発生させる。カム角に応じて、軸方向に発生したスラストの力によって、プレッシャーリングがクラッチ板を押しつけることにより、左右のトルク差の差動制限を行う。このカムの角度値が大きいほど、スラストの力が増加し、トルクバイアス比も大きくなる。
私たちのLSDのカム仕様は、ドライブ側が35~45°、コースト側(エンジンブレーキ時など、トルクの向きが逆回転になった時)が15~20°の1.5Way仕様としている。コースト側のカム角を小さくとることで、コーナー進入時の差動制限を低く抑え、プッシュアンダーステアを抑制し、車両の安定性を確保する。また、前述のように、多板クラッチ式のLSDでは、チャタリング音(クラッチ板が作動音)の発生が、問題になりがちであるが、ストリートユースを前提に、その発生を極力抑えるべく指定デフオイルを付属しているのも特筆すべき点である。
■Limited Slip Diff. 機械式1.5WAYタイプ CUSCO製 指定LSDオイルを付属
車名 | 適合車種 | 部品番号 | 税込価格 (税抜価格) | 仕様 | コード | 参考作業 時間 |
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RX-8 | SE3P | MSE660 | ¥149,600 (¥136,000) | カム角:ドライブ側35°/コースト側20° イニシャルトルク:約40.8~51.0N-m(4~5kgm) 指定LSDオイル2缶(1L×2)を付属 | F | 3.0h |
RX-7 | FD/FC系全車 ※1 | MSE660 | ¥149,600 (¥136,000) | カム角:ドライブ側35°/コースト側20° イニシャルトルク:約40.8~51.0N-m(4~5kgm) 指定LSDオイル2缶(1L×2)を付属 | F | 3.0h |
ロードスター(ND) | NDERE MT車/NDERC MT車 ND5RE MT アシンメトリックLSD装着車/ND5RC NR-A NDERE AT車/NDERC AT車 ND5RE MT アシンメトリックLSD非装着車/ND5RC MT車(NR-Aを除く) ND5RE AT車/ND5RC AT車 | MND6610 MND6630 MND6600 MND6620 | ¥140,800 (¥128,000) | カム角:ドライブ側35°/コースト側20° イニシャルトルク:約40.8N-m(4kgm) 指定LSDオイル1缶(1L)を付属 | F | 4.0h |
ロードスター(NC) | NCEC | MNC660 | ¥135,300 (¥123,000) | カム角:ドライブ側45°/コースト側15° イニシャルトルク:約40.8N-m(4kgm) 指定LSDオイル1缶(1L)を付属 | F | 3.0h |
ロードスター(NB/NA) | NB8C/NB6C/NA8C | MNB660 | ¥135,300 (¥123,000) | カム角:ドライブ側45°/コースト側15° イニシャルトルク:約40.8N-m(4kgm) 指定LSDオイル1缶(1L)を付属 | F | 3.0h |
指定LSDオイル(交換用) | MAA6600 | ¥4,070 (¥3,700) | API/GL5 SAE/80w-90 1L缶 CUSCO製 | F | - |