「エコカー」の時代に求められるのは
「個の満足」と「社会的要請」の調和だ。

今、車のチューニングには、さらなる社会性が求められている。

マスコミが喧伝するほど急速にではないとしても、エコカーが多数派になる時代は早晩やってくるだろう。何しろ地球温暖化を阻止するという社会的な大義があるし、化石燃料もいずれは枯渇するだろうから、異議を唱えるわけにはいかないのだ。
そうなれば、当然のことだが、量産車にユーザーが後から手を加えることには、何かと非難的な風潮が強まるものと懸念される。一部の個人の反社会的なパフォーマンスへの欲求から生まれた印象の強い日本の「改造車」には、根強い偏見が存在するからである。 社会的な良識を身に付けた現代のチューニング愛好者にとってはいい迷惑である。だが、風評被害と嘆く前にやるべきことはある。チューニングの在り方そのものを進化させるとともに、社会的にも正しい認知を得られるように努力することだ。 私たちAutoExeは、その意味でこれまでも先頭に立ってきたと自負している。そして、これからも、私たちと同じ価値観を共有する諸兄とともにチューニングの楽しさを創造するために、挑戦し続けたいと思う。

「km/l」を、車が求めるべきすべての進化と考えるのは危険だ。

「原理主義」という言葉がある。自らの信条をこの世における唯一絶対の価値として、他者の追従を強制する考え方だ。人類のすべての営みはCO2の削減に寄与すべきだと主張する「エコ原理主義(?)」も、現在の風潮なら、進歩的なイデオロギーとして増殖する可能性はないとは言えない。
そこまではないとしても、メーカーのマーケティングとしては、そのような危険性を感じさせる車が既に登場し始めている。特に突出した燃費性能を謳う車では、高速域の燃費を稼ぐための実用性を犠牲にした特異な空力スタイルを採用したり、タイヤ性能のチューニングやブレーキの効き方など、見えないところでも燃費志向の設計が優先されていると思われるのだ。 燃費競争の結果が、使い勝手の悪さや運転する楽しさの否定につながるとしたら、それは本来の進化とは違うだろう。乗る人が車に求めるもの、その機能や用途、さらにはデザインとかファッション性などをしっかり押さえた上で、よりよい燃費の実現を目指すことこそが本来の正常な進化というものである。

例えばスタイリングの個性化。Cdの悪化を最小限に抑える職人芸もある。

アフターパーツの世界で一般的に「エアロ」と称されるボディパーツを、私たちは従来から「スタイリングキット」と呼んできた。フロントグリルやバンパー・スポイラーなどの部品は、単に空力(エアロダイナミクス)性能に関係するだけでなく、乗る人の自己表現の一部として、重要な価値を持つと考えるからである。
もちろん、機能としての空力を無視するということではなく、前面投影面積の増大やCd(空気抵抗係数)の悪化を最低限に抑えた上で、できればCL(空気揚力係数)を減らしてタイヤのグリップ力を向上させるという狙いもある。だが、これ見よがしのダウンフォース追求型エアロとは、明確に一線を画したかったのだ。
それにしても、私たちのような小さな組織では風洞試験場を持つことはできない。メーカーが所有する実車風洞は、恐らく何十億円という建設費がかかっているし、維持費も莫大であろう。だから、通常は経験と勘による職人芸と実車走行による評価での造形を余儀なくされる。もっとも、基本的なスタイリングをいじるのではなく、あくまでも付加的・部分的な変更にとどまるから、それでも事足りているのだ。
だが、エコ意識の高まりの中では、そうは言っても不安を抱かれるユーザーも多かろうと、今回は新型アクセラのスタイリングキット装着車を、アフターの中ではビッグなエアロメーカーが自作した風洞に持ち込んで、久しぶりのテストを敢行した。
個別の風洞には、個性というか癖のようなものがあって測定結果にかなりな差がでるので、メーカー発表値と直接の比較をすることはできないから、標準仕様のレンタカーとの同時テストで相対的な傾向を求めたのだが、その結果を生で記せば、標準仕様に比して、Cd =98.5%  前面投影面積=100.2% というデータを得た。空気抵抗はこの2項の積に比例するから、単純に計算すれば0.985X1.002=0.987ということになる。
あくまでも民間仕様の風洞だから、これを持って「標準車を超えたエコスタイル」などと言い張るつもりはない。誤差を考えれば「ほぼ同等。少なくとも大幅な悪化はない。」ぐらいの評価が妥当であろう。ちなみに、リフトの方は確実に下向きに転じ、わずかながらもダウンフォースを発生していた。見た目のルックスは好みの問題だが、量産仕様の煩雑なデコレーションを廃したシンプルでダイナミックな表情は、スポーティな中にも知的な雰囲気をクリエイトできたものと自負している。個性的なデザインと社会的な空力性能が、必ずしも矛盾しないという実例である。

個性と社会性の調和こそ、時代の求めるNew Driving Sensation。

量産の宿命を負った標準仕様は、快適性・信頼性などの面で、普遍化・大衆化のための過剰なマージンを押し付けられている。私たちは、これまで、その余裕を慎重に見極めたうえで、余剰な部分を削って運転を楽しむ方々のために活用することをチューニングの基本と考えてきた。語弊を恐れずに言えば、エコカーの時代における燃費とて聖域ではない。 もちろん限界はあるが、社会的な良識に反しないぎりぎりのバランスが、きっと見つかると考えている。それが、私たちの提唱する新しいドライブ感覚、個と社会のハッピーな調和から生まれる”New Driving Sensation”である。

「km/L」をどうコントロールするか
エコとエゴを両立させる燃費計算の基礎知識。

「km/l」を支配するのは、原動機系のエネルギー効率vs. 走行抵抗の大きさだ。

走行中の車には、状況に応じてさまざまな抵抗が発生する。マイナスの加速度を与える力だ。従って、車が同じスピードで走行し続けるためには、これらの抵抗の合計に等しいプラスの加速度で打ち消さなければならない。それがエンジンやモーターなどの原動機から駆動装置を経てタイヤに供給される駆動力だ。
仮に、一台のガソリンエンジン車がa(km)を走行する時にb(ℓ)の燃料を消費したとすれば、その間の損失エネルギーは、全走行抵抗(N) x 1,000 a(m) として計算できる。エネルギー(J:ジュール)=力(N)x距離(m)だからである。一方、その間の供給エネルギーは、b ℓのガソリンの含有エネルギー(J) x 原動機系(駆動系を含む)の効率である。 結果として、それが等しいのだから、燃料消費率a/b(km/ℓ)は原動機系の効率に比例し、走行抵抗に反比例することになる。エコカーがエンジンや変速機の効率向上と同時に走行抵抗の低減を図るのは、このような燃費構造が存在するからだ。

>>損失エネルギーと供給エネルギーの計算式

頭の体操としてなら、燃料消費率の計算にスーパーコンピューターはいらない。

通常の燃料消費率は実車走行によるテストで測定するが、概略は机上でも計算できる。単純な原理原則のレベルだから、精密な制御を受けた実車の数値を正確にトレースすることはできないが、傾向だけは把握できるのだ。エネルギー(J:ジュール)や力(N:ニュートン)が相手なので、文系の頭脳にはいささか取っつき難いかもしれないが、何しろこういう時代だ。ネットにも平易な解説があったりするから、それらを参考に燃費の成り立ちの理解に挑戦してほしい。 車にかかる走行抵抗は4種類で、それぞれの計算式はこの通りだ。複雑そうに見えるが単位だけを計算すれば、すべてが質量(kg) x 加速度(m/s2)、つまり(N:ニュートン)となる。これを合計した全走行抵抗(N1+N2+N3+N4) に走行距離(m)を乗じれば損失エネルギー (J)が得られる。

ガソリンの含有エネルギーは44,000,000(J/kg)と分かっているので、比重の0.75を掛ければ33,000,000(J/ℓ)と計算できる。消費したガソリン量(l)を掛ければ供給エネルギー (J)が出る。
後は、「損失エネルギー=供給エネルギー」という数式に必要なデータを入力すれば、燃料消費率に関する計算が可能になるというわけだ。
・シミュレーション1 「40km/hのクルージング」におけるエネルギー効率。
・シミュレーション2 「走行抵抗の変化」による燃費への影響。

大きく影響するのはアクセルを踏むこと。問題は「km/人」かも知れない。

というわけで、一定の節度内のチューニングが燃費に与える影響は限定的で、それ自体が反社会的と糾弾されるレベルではない。ただし、問題は残る。ここまでのシミュレーションは平坦路での定速走行であり、言わば「大人しい運転」を前提にしているからだ。チューニングを施せば、それに応じた走り方をしたくなるのは当然。スピードも出すし峠道にも遠征するだろうから、そのような場面での、欲求の代償とも言うべき「km/l」をモデル車両で試算した。

極端な場合、勾配5.0%の 坂を登りながら40km/hから4.0m/s2の加速を得ようとすれば(実際に可能かどうかは別として)、0.77km/lという燃費が計算される。インターネットのホームページ上に表計算のモデルをアップしておくので、転がり抵抗係数・車両重量・Cd・車速・勾配・加速などを変化させて、諸兄のチューンや走り方のイメージに応じた燃費を試算してみてほしい。

[su_framebutton url=”https://www.autoexe.co.jp/wp/wp-content/uploads/concept/03/f_e_simulation.xlsx” background=”#ef802d” size=”2″]燃費シミュレーションプログラム(ダウンロード)[/su_framebutton]

さまざまな加減速を繰り返す通常の運転では、当然のことながら、走り方次第で燃費は変わるから、個の社会的責務とは、多分、所有する車のカタログに表示された「km/l」で満たされるのではなく、年間または月間あたりの「km/人」こそが問われるべきであろう。燃費とは、単に機械としての車の性能ではなく、「車+人」というシステムとしてのアウトプットなのだ。その認識がなければ、これからの時代の”Fun to Tune”を享受することはできそうにない。