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チューニングを楽しむための動的感性工学概論 §17


ロールの味を決めるのは「角速度」の立ち上がり方…その計算と感性評価。

引き続き、ロールをテーマに進めていきます。今までの講義は、基礎メカニズムの理解を促すことが目的でしたから、できるだけシンプルに進めるために、時間軸の概念を省いてきました。「ロールモーメントとロール剛性が釣り合った時点でロール角が安定する。」という結果としての基本原理については、既に十分にご理解いただけたと思います。
しかし、実際のロールのプロセスに注目すると、結構、複雑です。最終的なロール角度が同じになる場合でも、瞬間・瞬間のロール角加速度(rad/sec2)や、角速度(rad/sec)は同じとは限りません。ドライバーは、ゆっくりと穏やかにロールしていけば安心と感じますし、グラっとして急激な場合、不安に感じるのは想像に難しくないでしょう。従って、単にロール角度の絶対値だけでなく、その「過渡特性」、「ロールの進み方」、「最終的にロール速度が0に納まるまでの変化の仕方」というような、いわば「ロールの味」という動的感性に対する評価軸を用意する必要があるのです。
そこで今回の講義では、時間経過によるロールの進行メカニズムと、実際のチューニング効果を、可能な限り計算とグラフで検証してみます。ロール速度は多くの要素が関係し、しかも連続的に変化するので、一般的にはこんな計算はしないのですが、例によって「なぜ、そうなるか?」という基本的な疑問にお答えすべく、かなり乱暴に単純化してお話ししますので、あくまでも原理的な理屈として受け取っていただき、ご自身の知的なチューニングにお役立ていただきたいと思います。少し難解な部分もあると思いますが、細かい数字は無視して、全体の「力関係」のイメージが描けるように頑張ってください。


■ロール速度が変わるのはなぜか?
では、最初にロール速度を決定するメカニズムをみていきましょう。ロールは、横加速度(G)を起因としたロールモーメントが、ロールセンターを中心に車体を回転させる(結果、車体が自転する)ことで生じます。反対にサスペンションは、回転する車体を伸縮自在のツッパリ棒のように受け止めてロールを抑えます。ですから、ロール速度はロールモーメントが大きければ速くなりますし、それに対抗するサスペンションの力が大きいほど遅くなるのです。これが原則です。
しかし、その前に、実は、もう一つロール速度を決める要素があります。それは、静止しているものは静止し続ける性質、いわゆる慣性です。シンプルな直進運動では「動かすために必要な力(N)=質量(kg)×加速度(m/sec2)」ですので、質量が大きいほど動きづらく、その状態を維持しようとします。ロール(回転運動)も同様で、「回転しづらさ」は車体の重心に対しての質量分布によって決まり、重量物が重心点から離れるほど回りづらくなります。その概念を慣性モーメントといい、その計算式は下記のようになります。直進運動の質量が、慣性モーメントに変わっただけで、基本的に同じ考え方ができます。(慣性モーメントの詳細は、§9をご参照ください。)

・ロールモーメント(Nm)=慣性モーメント(kgm2)×角加速度(rad/sec2
(慣性モーメントの単位にはほとんど意味がありません。係数みたいなものと考えてください。)

従って、ロール速度を決定する過程を箇条書き的に整理すると、以下のようになります。①ロールモーメントが加わると、②その車に固有の慣性モーメントに応じて、③角加速度が生じます。そして、角加速度は、時間経過に応じて④ロール速度(角速度)を生みます。しかし、その過程を通じて、ロールしようとする車体を⑤サスペンションが対抗して抑えますから、それらの力関係によって⑥各瞬間のロール速度が変化する…のです。

ここでは、とりあえず単純にサスペンションと言いましたが、それを構成するスプリングとダンパーでは、ロールに対抗する仕組みが異なります。また、実際のロールのプロセスは、このような複雑な要素が絡み合って、同時並行的に進行しているのですが、以下、それぞれの影響を理解していただくために、大胆に単純化したモデルを設定して、簡易的に、ロール速度の計算に挑戦することにします。

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ここで使用するモデルは前回と同じくホイールベースを無視した左右2輪車とします。また、走行条件は操舵速度やそれによるヨー角の付き方を無視して、ある地点で突然0.5Gの横加速度が加わったものと仮定します。そうでないと運転の仕方という不確定な要素が入り込んで収拾がつかなくなるからです。

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■サスペンションのない浮揚状態でのロール速度
最初に、これは現実的にはまったくあり得ないケースですが、サスペンション(スプリング&ダンパー)がない浮遊状態で計算してみましょう。

計算方法は、最初にロールモーメントから角加速度を算出します。角加速度を算出したら、時間経過を掛けてその時の角速度を導きます。角速度が計算できれば、時間経過との関係からロール角のつき方も分かりますので、ロールの全容をみることができます。

・角加速度の計算(前項の式を変形して、モデル車の諸元と走行条件を入れると下記の計算になります。)


・角加速度=ロールモーメント÷慣性モーメント=750Nm÷175kgm2≒4.29rad/sec2

微小なロール角度では、ロールモーメントは一定ですし、それを抑えるサスペンションがない想定ですから、角加速度は変化することなく常に一定です。

・角速度の計算
続いて、角加速度から角速度を求めます。毎秒4.29rad/secずつ角速度が速くなります。
例えば0.2秒後なら、下記のように単純計算できます。

・0.2秒後の角速度の計算 = 4.29rad/sec2×0.2sec ≒ 0.86rad/sec

・ロール角の計算
ロール角の変化は、静止状態から、同じ角加速度で加速中ですので、「加速度と経過時間」の関係から算出できます。計算は、0rad/secから加速後の角速度を計算し、2で割ることで、平均角速度を求めます。その平均角速度にもう一度経過時間を掛ければ、その時点までのロール角が得られます。例として、ここでも0.2秒後で計算してみます。

・ロール角=角加速度(rad/sec2)×経過時間(sec)÷2×経過時間(sec)
・ロール角(0.2秒経過時)=4.29rad/sec×0.2sec2÷2≒ 0.09rad ≒ 4.91deg

下表に0~0.35秒後まで段階的に計算した結果を整理しました。それぞれの計算式から分かるように、角速度は時間に比例して速くなり、ロール角は時間の2乗に比例して大きくなっています。

項目 単位 時間経過(sec)
0.0 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35
ロールモーメント Nm 750.0 750.0 750.0 750.0 750.0 750.0 750.0 750.0
角加速度 rad/sec2 4.29 4.29 4.29 4.29 4.29 4.29 4.29 4.29
角速度 rad/sec 0.00 0.21 0.43 0.64 0.86 1.07 1.29 1.50
ロール角 rad 0.00 0.01 0.02 0.05 0.09 0.13 0.19 0.26
deg 0.00 0.31 1.23 2.76 4.91 7.67 11.05 15.04

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このケースでは、ロールモーメントと慣性モーメントによって角加速度が決まり、それに応じて角速度、ロール角が決まることをご理解いただけたと思います。つまり、その車体固有の特性である慣性モーメントの大きさが全てを決定しますので、ベース車両の特性が重要だということです。

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■ダンパーだけを装着した状態でのロール速度
次にダンパーがロール速度に与える影響を純粋に検証してみます。先程の浮揚状態の車にダンパーだけを装着した右図の仕様とします。ダンパーは、ピストンスピードによって減衰力が変化しその都度、角速度と互いに影響し合うので、本当はもっと複雑なのですが、ここでは減衰力の影響だけを見るために、ピストンスピードによって減衰力(伸縮合計で600Nと設定)が変化しないダンパーを装着したと仮定して、その影響を計算することにします。
最初にダンパーの抗力モーメント(以下、抗力とします)の計算です。ロール中、ダンパーは内輪側が伸び、外輪側が縮み両輪の減衰力で抗力を発生させてロールに対抗します。そのモーメントとしての抗力は、トレッドの半分をレバーとして、伸び側・縮み側の減衰力を足した総減衰力との積になります。

・ダンパーの抗力(Nm)= トレッド(m)÷2×(伸び側減衰力+縮み側減衰力)
抗力(Nm)=1.5m÷2×600N=450Nm

ダンパーの抗力(450Nm)は、ロールモーメント(750Nm)を抑え込むようなイメージで300Nmまで減衰します。つまり、ロールモーメントを300Nm(仮に実効ロールモーメントとします)に弱める働きをしたということです。

・実効ロールモーメント(Nm)=ロールモーメント(Nm)-ダンパーの抗力(Nm)≒750Nm-450Nm≒300Nm

ここから先は、単純に、ロールモーメントが、実効ロールモーメントに変わるだけで計算方法は同じです。念のため計算式を列挙します。

・角加速度(rad/sec2)=実効ロールモーメント(Nm)÷慣性モーメント(kgm2
・角速度(rad/sec)=角加速度(rad/sec2)×時間経過(sec)
・ロール角(rad)=角加速度(rad/sec2)×経過時間(sec)2÷2

それでは時間経過による変化の仕方をみてみます。グラフには、減衰力の違いの影響が比較しやすいように、前項の浮揚状態と減衰力を120%に上げた仕様を併記しました。

項目 単位 時間経過(sec)
0.0 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35
ロールモーメント Nm 750.0 750.0 750.0 750.0 750.0 750.0 750.0 750.0
ダンパー減衰力 N 600.0 600.0 600.0 600.0 600.0 600.0 600.0 600.0
ダンパー抗力 Nm 450.0 450.0 450.0 450.0 450.0 450.0 450.0 450.0
実効ロールモーメント Nm 300.0 300.0 300.0 300.0 300.0 300.0 300.0 300.0
角加速度 rad/sec2 1.71 1.71 1.71 1.71 1.71 1.71 1.71 1.71
角速度 rad/sec 0.00 0.09 0.17 0.26 0.34 0.43 0.51 0.60
ロール角 rad 0.00 0.00 0.01 0.02 0.03 0.05 0.08 0.11
deg 0.00 0.12 0.49 1.11 1.96 3.07 4.42 6.02

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計算結果から、ダンパー抗力が、ロールモーメント(750Nm)を抑えるので、実効ロールモーメントが300Nmになり、単純比較で浮揚状態の40%になります。それに伴って、角加速度、角速度も抑えられロール角の進行度合いも40%で推移します。
更に減衰力を120%(720N)に高めると実効ロールモーメントは、浮揚状態の28%になり、角加速度、角速度、ロール角の進行度合いも28%になるので、穏やかな傾向になります。
つまり、ダンパーの減衰力は、車体への入力であるロールモーメントを吸収して弱め、結果、角加速度の発生を抑えるので、角速度を下げる効果があり、減衰力が高くなるほどその傾向は強くなります。従って、今回の講義のテーマに対する結論の一つが、「ロール速度の決定のカギは、ダンパーの減衰力の設定にある。」ということになります。 ただし、サスペンション全体の機能としては、ダンパーは角速度発生時(ロール進行時)のみ抗力を発生し、最大ロール角を決めることはできませんので、物理的な制限があるところまでロールしてしまうという問題があります。

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■スプリングだけを装着した状態でのロール速度
続いて、スプリングがロール速度に与える影響を検証してみます。前項のダンパーを取り外して、スプリングだけを装着した右図の設定とします。

ダンパーもスプリングも、ロールを抑える・・という最終的な目的は同じですが、そのプロセスが異なります。
ダンパーは、ロールモーメントを減衰することでロールの進行を抑えますが、スプリングは、ロールモーメントに応じて伸縮することでロールに対抗する力を蓄積します。その結果、蓄積されたロールモーメントが、車体に対する反力モーメント(以下、反力とします)となってロールを跳ね返そうとする(角加速度を低減する)のです。つまり、入力の低減(実効ロールモーメントの低減)に効くダンパーと、出力の低減(実効角加速度の低減)に効くスプリング…というように、効き方が異なるとイメージしてください。

その反力の計算は、ダンパー抗力の計算式にある「トレッドの半分」を2乗するだけですので、基本的に同じです。2乗する理由は、スプリングの反力は伸縮量(ロール角xトレッドの半分)に従って大きくなり、それに“テコ” のレバー(トレッドの半分)を再度掛け算するからです。(§15で解説したロール剛性にロール角を掛け合わせるのと同じことです。)
では、実際に計算します。例えば、ロール角1.0deg(0.017rad)時のスプリングの反力は、以下のように算出します。本来、スプリングの反力の単位は、Nmですが、ここではスプリングの役割を明確にするために、スプリング反力(Nm)を慣性モーメント(175kgm2)で割った減速方向の角加速度(rad/sec2)にまで落とし込んで計算を進めます。

・スプリングの反力(Nm)=トレッド(m)2÷2×バネ定数(N)×ロール角(rad)
反力(Nm)=1.5m2÷2×15000N×0.017rad(1.0deg)≒286.8Nm
反力(rad/sec2)=286.8Nm÷175kgm2≒1.63rad/sec2


計算結果から、ロール角1.0deg時のスプリングの反力は、1.63rad/sec2の減速方向の角加速度を発生することが分かりました。この反力を、実効ロールモーメントと慣性モーメントから算出した角加速度から引き算すれば、最終的な角加速度(実効角加速度)が得られます。

・ロール角1.0deg時の実効角加速度 = 角加速度(rad/sec2)-反力(rad/sec2
=4.29rad/sec2-1.63rad/sec2 ≒ 2.66(rad/sec2)

このように実効角加速度が算出できれば、あとは加速度と時間経過の関係で、その時の角速度を導くことができます。実際に計算すると、下記のようにロール開始から約0.17sec、ロール角2.55degで、スプリングの反力が-4.29rad/sec2に達し、角加速度(4.29rad/sec2)が相殺されて加速度が0になり、ロール角が安定します。また、グラフには、バネ定数を120%にした場合も併記しました。参考にしてください。

敢えて細かいことを言えば、理科系の知識がある方ならすでにお気づきと思いますが、スプリングの反力から角速度を計算する式はロール角のみに依存する関数なので、本来は経過時間から計算することはできません。そこで、絶対値で誤差が出るのは承知のうえで、イメージ的な傾向を知るために、極小時間での変化を階段的に積みあげて近似値を求めてみました。エクセルの表計算を利用した、いわば「力仕事」です。念のため、その計算の概要を下記します。
前項までは、常に一定の角加速度(等加速度)でしたから、それに伴った角速度やロール角も規則的に変化していました。しかし、今回のケースは、実効角加速度が常に変化し続けているので、本来、下記のように5/100secごとの粗い目の表で記すことはできません。実際の計算は0.01secごとに行っています。
例えば、表の0.10sec時の欄(青塗りつぶし箇所)の場合、厳密には「0.10000・・・1」~「0.10999・・・9」までの時間軸があり、その間、加速度が変化しながら加わっています。

表の計算は、この極小の時間軸の間、加速度を固定して計算しています。ですから、角速度は、加速度が加わる前(強引に表すと0.10000・・・1sec時)は0.37rad/secで、そこから約0.01秒後は、0.40rad/sec(0.10999・・・9sec時)になり、それに伴ってロール角も変化する…というような計算を繰り返しているのです。

項目 単位 時間経過(sec)
0.0 0.05 0.10 0.15 0.16 0.17 0.18
~0.35
経過前 経過後
ロールモーメント Nm 750.0 750.0 750.0 750.0 750.0 750.0 750.0
ダンパー抗力 Nm 0 0 0 0 0 0 0
実効ロールモーメント Nm 750.0 750.0 750.0 750.0 750.0 750.0 750.0
角加速度 rad/sec2 4.29 4.29 4.29 4.29 4.29 4.29 4.29
スプリングの反力 rad/sec2 0 0.33 1.59 1.93 3.52 4.29 4.29 4.29
実効角加速度 rad/sec2 4.29 3.96 2.70 0.76 0.0 -45.0 0.0
角速度 rad/sec 0 0.21 0.37 0.40 0.45 0.45 0.0 0.00
ロール角 rad 0.00 0.21 0.02 0.02 0.04 0.04 0.04 0.04
deg 0.00 0.01 1.15 1.15 2.35 2.55 2.55 2.55

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その結果をまとめた上記のグラフで、スプリングの反力が最大ロール角を決定するプロセスをイメージしていただけると思います。ただし、この簡易計算では、バネ定数を上げると角加速度・角速度の進行度合いも下がる傾向になりますが、実際は(今回の原則論からは遠くなりますので、その詳細には踏み込まないことにしますが)、ロール固有振動数という別の要素の影響もあって、バネ定数のアップは、むしろロール速度を速くする結果をもたらしますのでご注意ください。
また、グラフでは、最大ロール角に至った瞬間(0.17sec付近)で、角加速度や角速度が急激に変化していますが、これはスプリングだけによるロールの抑制には課題が残ることを示しています。反力の源は吸収したロールモーメントですから、それを上回ることはできないため、角速度の上昇は抑えられても減速させる力にはなり得ず、最大ロール角到達時に角速度が最大になってしまうのです。
加速度と反力の力関係がバランスして実効加速度が0になり、そこで安定しなくてはならないのに、動的な角速度が残ってしまう…この減速されずに残った角速度に対して、スプリングが本気で抵抗した…というイメージですが、それがどのように収束するかの説明は、これも「スプリングの振動」という別の難題に及びますので詳細は割愛するとして、この弱点をカバーしているのがダンパーということになります。

ここまでのシミュレーションで、車体の特性やダンパーの抗力、そしてスプリングの反力の役割分担がご理解いただけたと思いますので、次は、より現実に近づけるべく、減衰力が変化するダンパーとスプリングを組み合わせたシミュレートを行います。

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■ダンパーのセッティングによるロールの味付け
メインになるのは、スプリングとダンパーの関係です。ダンパーの減衰力を上げればロール速度が遅くなるとしても、常識的な言い方をすれば「ダンパーを固める」わけですから、乗り心地やその他に悪影響が出ては困るからです。
では、どの程度の減衰力に設定すれば、どんな味付けになるか…その指標になるのが「臨界減衰力」です。ご覧のように、ピストンスピードに比例して減衰力が増大しています。詳細は§10を参照していただくことにして、結論から言えば「ダンパー減衰力を上げる時の許容限界」とも言うべきもので、車のバネ上重量とスプリングのバネ定数に応じて、ピストンスピードごとに計算することができます。ですから、実際の減衰力を臨界減衰力の何%ぐらいにするか(減衰比)を、ピストンスピードに応じて設定することで、希望する乗り味を引き出すことができるというわけです。
上のグラフは、臨界減衰力に対して、減衰比を全域で40%(青線)、90%(赤線)に固定した場合と、ピストンスピード=0.1m/sec時までに90%→40%(緑線)へと段階的に下げた場合の減衰力特性グラフです。因みに、減衰比100%とは臨界減衰力で、0%はダンパーが機能していないスプリングのみ装着した場合と同じです。
続いて、このような3パターンの減衰力設定におけるロールの進み方をシミュレートしてみましょう。車両は、前項で使用した左右2輪車で行い、計算方法も同じですので結果とグラフのみ記します。因みに、最大ロール角に至るまでのプロセスがイメージしややすいように、時間軸を2.0secまで広げています。その分、表は0.2sec刻みになり、更に目が粗くなっていますが、実際は0.01secごとに計算しています。

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<角加速度の比較>
ロールが始まる瞬間、(ロールモーメントが発生しているのにダンパーはまだ動いていない…というほとんど意味のない状態の理論値)を除けば、減衰比に応じて角加速度の下がり方が異なります。
減衰比が高いほど、初期(~0.20sec)の減衰が効き、角加速度が抑えられていることが読みとれます。

 


単位
(rad/sec2
時間経過(sec)
0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 1.80 2.00
40% 4.29 -0.28 -0.13 -0.08 -0.06 -0.05 0.00 -0.00 0.00 0.01 -0.00
90% 4.29 -0.08 -0.06 -0.04 -0.04 -0.03 -0.02 -0.03 -0.01 -0.01 -0.00
90%→40% 4.29 -0.19 -0.06 -0.00 -0.02 -0.06 -0.02 0.01 -0.01 -0.01 -0.01

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<角速度の比較>
角速度は、減衰比によって0.10secまでの立ち上がりのカーブと、それ以降の減速の仕方の違いが読み取れます。減衰比が高いほど、ロール初期の角速度の上昇を抑えていることが分かります。また、スプリングだけの時には上昇し続けていた角速度が収束していることが読み取れます。

 


 

単位
(rad/sec)
時間経過(sec)
0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 1.80 2.00
40% 0.00 0.09 0.04 0.02 0.01 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
90% 0.00 0.05 0.04 0.03 0.02 0.02 0.01 0.01 0.01 0.00 0.00
90%→40% 0.00 0.06 0.04 0.02 0.02 0.01 0.01 0.01 0.00 0.00 0.00

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<ロール角の比較>
減衰比によって、角加速度・角速度が変わるので、最終的にロールの進み方が異なります。ロール開始から、0.1sec時(初期ロール時)では、「減衰比40%」のロール角に対して、「減衰比90%」は78%に、「90%→40%」は、84%に留まっています。

 


 


単位
(deg)
時間経過(sec)
0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 1.80 2.00
40% 0.00 1.12 1.83 2.18 2.36 2.45 2.50 2.53 2.54 2.54 2.55
90% 0.00 0.61 1.18 1.52 1.78 2.05 2.21 2.29 2.40 2.50 2.55
90%→40% 0.00 0.83 1.38 1.76 2.00 2.19 2.29 2.40 2.47 2.53 2.55

以上のシミュレーションから、減衰比特性による違いを見ることができました。下のグラフは、私がAutoExeの車高調整式サスペンションを開発した際に指標とした減衰比・減衰力特性図です。低速域の減衰力が持ち上がっている(減衰比が高い)ことが読み取れると思います。ロールの初期段階(~0.1m/sec)で減衰比を高く設定し、素早く減衰力を発生させ、乗り心地域・突起域、それ以降の悪路域は下げて、減衰力に抑制を効かせた方が好ましい特性になると考えた結果です。

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先程の減衰比90%固定のようなセッティングは、初期ロール域の角速度を穏やかにできますが、乗り心地域以降は硬すぎる乗り味になってしまいます。逆に40%固定は、初期ロール域で角速度を十分に抑えきれず、急激にグラっとくるようなロール特性になってしまい不安に感じてしまうでしょう。
今回は、単純比較するために、総減衰力で計算し比較してきましたが、実際は、総減衰力を伸び側・縮み側への振り分け具合で更に乗り味を煮詰めていきます。突き上げ感の原因となる縮み側を控えめに、伸び側の割合を大きくとることで、ロール特性をセッティングするのです。
量産車の開発でも、ダンパーの味付けは、その車のコンセプトや用途によって、どの程度の減衰比に設定するかを検討して決めます。減衰比が決まれば、諸元から工学的に計算した試作ダンパーを作りますが、最終的な“味付け”を決めるのは人間の感性ですので、数学の方程式を解くようなデジタルな回答はありません。あくまでも、人間がどう感じるかが重要なのです。

■実際のチューニング効果の検証
では、最後に、実際のチューニング効果の例として、NCロードスターにAutoExeのチューニングパーツを加えて、その効果を検証します。走行条件は前項と同じで、ロールセンターを固定し車高変化や重力によるロールモーメントの影響は考慮しない簡易計算で行います。先ほどの数式にそれぞれ設定値を反映するだけですので、結果のみ記します。表は、0.2secを境にスケールが異なります。

チューニング内容 ダンパー仕様
上段:減衰力(N) 下段:減衰比(%)
スプリング仕様
ピストンスピード(m/sec) バネ定数
(N/mm)
標準比
0.05 0.1 0.3
標準車 549.0
(54%)
647.9
(32%)
1132.8
(18%)
44.4 -
①ダンパー(標準)
 +ローダウンスプリング(バネ定数アップ)
549.0
(54%)
647.9
(32%)
1132.8
(18%)
56.8 128%
②スポーツダンパー(減衰力アップ)
 +スプリング (標準)
619.5
(60%)
974.1
(48%)
1923.5
(31%)
44.4 100%
③スポーツダンパー(減衰力アップ)
 +ローダウンスプリング(バネ定数アップ)
619.5
(53%)
974.1
(42%)
1923.5
(28%)
56.8 128%
④車高調整式サスペンション 579.2
(47%)
787.3
(32%)
1416.3
(19%)
64.8 146%
※減衰力・バネ定数はホイール位置に換算して計算しています。

チューニング内容 時間経過(sec)
0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.50 1.00 1.50
角加速度(rad/sec2
標準車 4.55 1.18 -0.00 -0.70 -0.90 -0.04 -0.02 0.00
①ダンパー(標準)
 +ローダウンスプリング(バネ定数アップ)
4.55 1.13 -1.13 -0.98 -0.90 -0.06 -0.02 0.00
標準比 96% - 140% 100% 134% 69% 14%
②スポーツダンパー(減衰力アップ)
 +スプリング (標準)
4.55 0.61 -0.25 -0.42 -0.34 -0.04 0.01 -0.02
標準比 52% - 60% 38% 91% -41% -477%
③スポーツダンパー(減衰力アップ)
 +ローダウンスプリング(バネ定数アップ)
4.55 0.55 -0.34 -0.47 -0.23 -0.04 -0.02 0.00
標準比 47% - 68% 26% 85% 88% 16%
④車高調整式サスペンション 4.55 0.88 -0.30 -0.78 -0.41 -0.05 -0.01 -0.00
標準比 75% - 111% 46% 117% 48% -22%
角速度(rad/sec)
標準車 0.00 0.12 0.14 0.12 0.07 0.02 0.00 0.00
①ダンパー(標準)
 +ローダウンスプリング(バネ定数アップ)
0.00 0.12 0.13 0.10 0.06 0.01 0.00 0.00
標準比 99% 96% 89% 76% 69% 75% 95%
②スポーツダンパー(減衰力アップ)
 +スプリング (標準)
0.00 0.10 0.10 0.08 0.06 0.02 0.00 0.00
標準比 86% 72% 70% 82% 141% 210% 0%
③スポーツダンパー(減衰力アップ)
 +ローダウンスプリング(バネ定数アップ)
0.00 0.10 0.10 0.07 0.05 0.02 0.00 0.00
標準比 85% 69% 63% 74% 109% 117% 50%
④車高調整式サスペンション 0.00 0.11 0.11 0.08 0.05 0.01 0.00 0.00
標準比 93% 82% 71% 66% 72% 62% 22%
ロール角(deg)
標準車 0.00 0.21 0.59 0.97 1.24 1.78 1.99 2.01
①ダンパー(標準)
 +ローダウンスプリング(バネ定数アップ)
0.00 0.21 0.58 0.93 1.16 1.58 1.72 1.73
標準比 100% 98% 96% 93% 89% 86% 86%
②スポーツダンパー(減衰力アップ)
 +スプリング (標準)
0.00 0.20 0.49 0.75 0.95 1.61 1.95 2.01
標準比 92% 83% 78% 77% 91% 98% 100%
③スポーツダンパー(減衰力アップ)
 +ローダウンスプリング(バネ定数アップ)
0.00 0.20 0.49 0.73 0.91 1.46 1.69 1.73
標準比 92% 82% 75% 73% 82% 85% 86%
④車高調整式サスペンション 0.00 0.21 0.54 0.82 1.01 1.43 1.57 1.58
標準比 96% 91% 85% 81% 81% 79% 79%

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いずれのケースも、チューニングすることで初期ロール域の角速度が遅くなっていることが読み取れます。感性的には、操舵した瞬間のロール特性が、より穏やかになったと言えると思います。また、同じダンパーを使用して、スプリングの組み合わせを変えても、ロールの傾向は変わらないことが確認できたのではないでしょうか。
どの組み合わせが最良か…の結論は、もちろん、ドライバーの感性による選択の問題です。要は、目的をはっきりさせて、それを実現するためのチューニングパーツを、きちんとした知識をもとに見極めることが大切だと思います。

■動的感性との関連性
減衰力の設定は、ロール初期(ピストンスピード0.1m/sec以下)が重要と言ってきました。この領域は、減衰力が立ち上がりづらく、ダンパーシャフトのガイド部や、ガス、オイルシール部のフリクションが影響を及ぼします。過去には、シール部のフリクションを大きくすることで、ロール初期の特性を良くみせる、苦肉の策ともいえる対応も存在しました。しかし、フリクションが大きいことは、当然、ダンパーシャフトの動きが抑制され滑らかでなくなり、乗り心地の悪化にもつながります。
良いダンパーとは、微小領域でもしっかりと減衰力が立ち上がるダンパーです。そのためには調整バルブ等を廃しできる限りシンプルな構造にしたほうが有利です。複雑になるほど、部品間のクリアランスからダンパーオイルが逃げてしまい、微小領域の減衰力が立ち上りにくくなるからです。近年の量産ダンパーは構成部品の品質が良くなり、ひと昔とは比較にならないほど性能が向上しました。つまり、良い素材を活かすも殺すもセッティングするチューナー次第だということです。個人レベルで減衰力のセッティングをする機会は、決して多くないかもしれませんが、知識を深めることで自分にあったダンパーを選択し愉しむことはできると思います。

過去3回に渡ってロールをテーマに講義を進めてきました。実際のロール角は、スポーツカーで2.0°程度ですから、トレッドが1.5mの場合、ホイールストロークで約2.6cm程度です。この微細な運動に対して様々な因子が複雑に影響し合ってプロセスが決まり、しかも、人の感性は繊細に感じ取る能力があるということです。
ロールは、誰もが感じやすく人間の感性に対して最も影響のある運動と言われています。自らの三半規管などで、クルマから伝わる角速度、角加速度を感知し電気信号として脳に伝えています。その際、好ましいロールは「快」と認識し、逆に期待値に対してズレが生じると「不快」と感じ、車酔いを誘発したりします。そのような挙動の変化をドライバーにとって好ましい特性にすることが、動的感性に優れたクルマの開発につながるのです。