チューニングを楽しむための動的感性工学概論 §15


ロール剛性のチューニングを楽しむために…基本のメカニズムの徹底解説。

新型ロードスターも発売されて、マツダの目指す人馬一体コンセプトもより磨きがかかってきました。経済性や環境性能だけでなく、自動車の根幹たる運転を楽しむ性能が見直されつつあり、スポーツカーの開発に長年携わってきた私にとっても嬉しい限りです。
その人馬一体感を存分に堪能できるシチュエーションは、やっぱりコーナーリングでしょう。気持ちよくコーナーに進入して、イメージ通りのライン取りで駆け抜ける瞬間は、まさにその真骨頂だと思います。
反対に、ドライバーの意に反して、グラっと不安定な挙動を感じてアクセルを緩めたりするのは、動的感性などと難しいことを言うまでもなく、不快に違いありません。そういう不快感の主な原因がロール(専門的にはローリングと言います)です。
ロールは、誰もが感じやすく、人間の感性にとって最も影響のある運動と言われています。車酔いもロールが原因であることが多く、三半規管の内耳でとらえた傾きと目で捉えた傾きのズレによるものだという研究結果もでています。量産車からのチューニングでも、ロールの低減効果を謳った機能商品が多いのは、人間が体感しやすいからなのでしょう。
今回から、ロールと動的感性との関連性をひも解いていこうと思います。
ロールは自動車工学的にも、感性工学的にも色々な要素を併せもった運動です。講義はいつものように多角的に進めていきますが、その全容を理解するために、まず基礎的なメカニズムの知識が必要になります。今回は、ロール運動の基礎編、つまり、メカニズムを解説していこうと思います。例によって難解な数式も出てきますが、頑張ってお付き合いください。


■ロールとは何か?どのような運動か?
人間も乗物も、旋回時では、遠心力によって外側へ押し出されないようにバランスさせようとします。 新幹線は、線路に傾き(カント)をつけて、遠心力と重力の合力が、線路に対して直角になるように対応しています。

ですから、乗客は遠心力を感じることなく、快適に移動できるのです。また、スピードスケートの選手は、体を内側に倒し重心を移動して、遠心力と重力の合力をスケート靴のエッジと氷の接点に向かわせて滑走しています。共に、傾けることによって合力をバランスさせていますが、車のロールとは逆に傾いていることを気づかれたかと思います。この逆ロールと呼ばれる姿勢は(ベンツの一部の新型には、これを可能にする技術が採用されていますが)、一般的に言えば、車で実現することはできません。

その理由は、車は様々な路面状況に対応し乗り心地を保持するためにサスペンションを装備しているからです。コーナーリング時、車体に遠心力が掛かると、外輪側のサスペンションが沈み込み、内輪側が伸びて、遠心力に対して車のX軸を中心に回転するようにバランスさせています。この回転運動がロールです。

しかし、この説明は100%正確ではありません。もう少し詳細に考えてみることにします。ロールとは、車のX軸まわりの自転運動(§9参照)と定義されるのですが、実際は、遠心力が車の重心を押すように掛かり、重心がロールセンターと呼ばれる点を中心に公転する運動です。その結果、水平線を基準に考えれば、公転によって車体が傾き、重心点まわりに自転することになるのです。公転運動が自転運動を生むというプロセスは、旋回運動の極低速時と同様です。 運動の問題というより、むしろ幾何的な結果とお考えください。
車体のロール角度(自転角度)=重心の公転角度です。では、この公転中心(ロールセンター)は、どこにあるのでしょうか。サスペンションは、クロスメンバーとサスペンションアームの取付ポイントを支点として、幾何的に動きます。ですから、ロールセンターの位置は下記のようにサスペンションのデザインによって異なり、しかも、ロールが起こるとサスペンションジオメトリーの変化に伴って、その位置は常に移動します。

タイヤの構造2

 

※クリックすると拡大画像が立ち上がります。駆動方式によるヨーモント

また、車の車体は剛性の高い立体ですから、本来、ロールセンターは前後のサスペンションのロールセンターを結んだ軸に存在するのですが、この講義は、基礎的なメカニズムの理解を促すことが目的ですから、とりあえず、前後どちらかのサスペンション単独の幾何的なロールセンターについて話を進めます。


■ロールを発生させる力の計算
車体を自転させる力を考えるのは少し難しそうですが、いい方法があります。ロールを発生させる力の源は遠心力でした。その遠心力が、重心とロールセンターが離れているため、ロールセンターを中心に、重心を公転させようとする回転力(ロールモーメント)に変換されているのです。

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この場合の自転とか公転とかは、単に視点を変えただけで基本的には同一の運動ですから、「自転モーメント=公転モーメント」です。で、公転側のモーメントなら、計算は簡単にできるのです。

この公転モーメントは、“てこの原理”と同じで、重心とロールセンターの距離が、長ければ大きくなり、短ければ小さくなります。極端な例ですが、両者の位置が一致している場合、遠心力はロールモーメントになりませんので、ロールしない車になります。
では、ロールモーメントの発生原理を詳しくみてみましょう。右図は、スイングアームのようなシンプルなサスペンションの「ロールセンター」と「重心」に加わる遠心力の関係を単純化したものです。ロールセンターと重心の距離によって、「てこの原理」が働くことがイメージできると思います。下記にロールモーメントの算出式を記します。過去の講義で、加速度の単位を「m/sec²」としてきましたが、ロールの計算をする際はG(1G=9.8m/sec²)が一般的ですので、その慣例に従って、本講義はGを使用して進めていきます。

・ロールモーメント =(重心高-ロールセンター高)× バネ上重量(N) × 横加速度(G)

この式で重要なのは、(重心高-ロールセンター高)の項です。ロール角がつくとロールセンターが移動するので複雑になりますが、この場合、静止時ですから重心とロールセンターは、垂直線上にあります。ですから、単純に「重心とロールセンター間の距離」が、「重心高-ロールセンター高」となります。
では、実際に下記の条件でロールモーメントを計算してみましょう。

・バネ上重量(車体重量):9500N 
・横加速度:0.5G(…例えば半径50mの定常円を約56.5km/hで定速旋回した時の横加速度)
・重心高-ロールセンター高:0.3m

よって、各条件を代入すると下記になります。

・0.3m × 9500N ×0.5G =1425N・m

これで、ロールが始まる瞬間のロールモーメントが算出できました。上記計算は、静止時(ロールしていない状態)ですから、ここから、ロールが始まります。

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つまり、この状態からサスペンションジオメトリーが変化し、「重心高-ロールセンター高」が変わるため、結果、ロールモーメントも変化します。水平方向に働く遠心力と、ロールセンターを軸として重心を回転させる力の方向が、ロール角分ずれているためです。

この場合、てこの腕として有効に働く長さは、重心を通る水平線とロールセンターまでの垂直距離になりますが、この数値は、ロールセンター自体も移動するため、実際にロール角を変えながら作図する以外に計算で求める方法はありません。

「重心高-ロールセンター高」とは、重心とロールセンターを結ぶ距離ではなく、自転軸(重心)と公転軸(ロールセンター)間の垂直距離ですので、誤解を防ぐ意味で、ここからは「垂直軸間距離」と呼ぶことにします。上図の場合だと、作図から得られた垂直軸間距離0.29mですので、それを代入して計算します。

・0.29m × 9500N × 0.5G ≒ 1377N・m(-48N・m)

垂直軸間距離の変化に伴って、ロールモーメントが変化することが分かりました。ただし、このようにロールが発生した段階では、重心点がロールセンターの真上にはないので、車の重量そのものが、そのずれた角度に応じたロールモーメントを追加させるのですが、そのことの影響は後述するとして、とりあえずロールを発生させる力の概要がお分かりいただけたと思います。

※クリックすると拡大画像が立ち上がります。ステアリング特性別の旋回姿勢

■ロールを抑える力の計算
次は、ロールを抑える力(ロール剛性)の計算です。
車は、路面と接地しているので、ロールセンターを中心とした公転運動が、路面によって阻まれ、その反力でサスペンションが縮みます。
ですから、サスペンションスプリングのバネ定数を高くすれば、少ししか回転できません。つまり、ロールモーメントとは反対向きのモーメントを生んでおり、内外輪のサスペンションのバネの力とトレッドの半分に相当するレバー長の掛け算で得られます。このモーメントを「ロール剛性」と言います。ロール剛性を正しく言うと「ロール角を1単位だけ変化させるのに必要なロールモーメント」のことを指します。ロール剛性を高くすれば、ロールを減らすことができるのです。それでは、ロール剛性を算出する計算式をみてみましょう。

・ロール剛性=ホイール位置バネ定数 ×(トレッド)² ÷ 2

バネが発生する力は、バネのたわみ量によるのですが、そのたわみ量はトレッドの半分を半径とした円運動の弦として得られます。微小角度では弦≒円弧ですので、半径×角度radで計算できます。そして、1 radという設定では計算から消えますから、バネの発生する力は、バネ定数×トレッド÷2ということになります。
重心周りのモーメントの計算では、その力にさらにレバー長としてトレッドの半分を掛けることになるので、バネ定数×(トレッド÷2)×(トレッド÷2)となり、整理すればバネ定数×トレッドの2乗÷4となります。

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このモーメントが内外両輪で発生するわけですから、伸縮は反対ですが力の働く方向は同じなので全体では2倍になり、バネ定数×トレッドの2乗÷4×2、つまり「バネ定数×トレッドの2乗÷2」という最初に挙げた数式が生まれるのです。2乗で効く「トレッド」を広げた方が、「バネ定数」のアップよりもロール剛性アップには効果的であることがご理解いただけたと思います。
では、実際の車でロール剛性を計算してみましょう。算出する車の諸元を右記します。基本的には、ロードスター(NC)をベースにして、計算しやすいように前後のトレッドを同一にしたり、サスペンションレイアウトを変更してあります。

<計算式>
・前輪ロール剛性 =(9506+11378)×1.49² ÷2 ≒ 23183N・m/rad
・後輪ロール剛性 =(13527+2689)×1.49² ÷2 ≒ 18001N・m/rad


単位は「N・m/rad」です。「rad」ではイメージしづらいと思いますので、「deg」に変換すると「1rad≒57.3deg」ですから、ロール角1°あたりに必要な力は下記のように算出されます。

・前輪:ロール角1°あたりに必要な力=23183÷57.3≒404.5N・m/deg
・後輪:ロール角1°あたりに必要な力=18001÷57.3≒314.1N・m/deg


トレッドを固定したこの例には当てはまりませんが、車全体としては、最近のNDのように、基本設計の時点で「2乗で効くトレッド」を広く取った方が、ロール剛性的には有利だということも覚えておいてください。


■定常円旋廻時のロール角の計算
では、実際のロール角を算出してみましましょう。 車体をロールさせようとする力は「ロールモーメント」で、抑えようとする力が「ロール剛性」ですから、安定時には、お互いに釣り合う関係にあります。下記の釣り合いの公式をみてください。

タイヤの構造2


ロール角は、「ロール剛性成分」と「ロールモーメント成分」のバランス点であることが、この公式から読み取れ、各項にはそれぞれφ(ロール角)が関係しています。

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ロール剛性は、「ロール角を1単位だけ変化させるロールモーメント」ですから、ロール角に応じて、ロール剛性成分が変化します。

一方、ロールモーメントは、遠心力に起因するものと、前項で少し触れた重力によるものがあります。φに関係する重力影響分は、重心がロールセンターの真上からφ分ずれることで、重力が重心を押し下げようとするロールモーメントになります。
この場合のモーメントはWsが路面に向かう重力ですので、それに直角な腕(横方向のズレ)との掛け算になりますが、その長さは微小角度では≒hs・φですので、Ws・hs・φで得られます。(右は概念図) この公式を、ロール角を求める式に変換すると下記になります。

では、実際に数値を代入して計算してみましょう。車両は、先ほどと同一でサスペンションアームレイアウトは、上下等長アームで内側(クロスメンバー側)から、外側(タイヤ側)向かって開いている外開き型としています。

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また、計算を単純化するために、ロール角度が変化しない定常円定速旋回時とします。この車の場合、ロールするに従って、ロールセンターの位置が右図のように移動し、重心も移動します。

ロールセンターは、向かって右斜め下に動きます。
一方、重心高は車体回転方向に下がりますが、それ以上にロールセンターが下がるので、垂直軸間距離は長くなり、ロールモーメントが大きくなることが作図から読みとれます。この時の垂直軸間距離を0.308mと仮定し、横加速度を0.5Gとして計算してみましょう。


・0.5G×9500N×0.308m÷((23183N・m/rad+18001N・m/rad)-9500N×0.308m)×57.3°≒2.19°

この車は、横加速度0.5G時に、約2.19°ロールすることが分かりました。 因みに、ここで設定している0.5G時のロール角をその車の「ロール率」と呼び、複数の車のロールの傾向を簡単に比較する時などに使います。


■ロール剛性を変えたり、ローダウンしたらどうなるか?
次に、「ロール剛性」を変化させたら、「ロール角」はどのように変化するのでしょうか?
先程の条件を100%として、ロール剛性を-50%~200%までの変化をシミュレートし、ロール角との関係を計算してみました。項目にある「簡易計算上のロール角」というのは、hsの影響を無視して、ロール角が単純にロール剛性に反比例するとして計算した大まかな数字だと思ってください。一般の解説書ではこの簡易計算が使われることが多いようです。φ = g(Ws・hs) ÷ (Kφf+Kφr )という計算です。hsはロールする前の固定値とします。

ロール剛性の 変化率 50% 75% 100% 125% 150% 175% 200%
垂直軸間距離 m 0.324 0.312 0.308 0.307 0.307 0.306 0.306
ロール角 deg 5.035 3.041 2.191 1.721 1.420 1.204 1.048
簡易計算上の
ロール角
deg 3.965 2.643 1.983 1.586 1.322 1.133 0.991
条件:横加速度0.5G
※クリックすると拡大画像が立ち上がります。ステアリング特性別の旋回姿勢

右のグラフでは、ロール剛性100%を基準として、剛性アップ域と剛性ダウン域のロール角がどのように変化するか比較できます。実際のロール角は、剛性アップするに従って簡易計算上のロール角の曲線に近づいていき、逆に剛性ダウン域は離れていくことが分かりました。わずかな差ではありますが、ロール角は単純にロール剛性に反比例して増減するのではないということが読み取れます。
続いて、ロール剛性を変えずに、ローダウンだけしたらどうなるのでしょうか? 一般的なローダウンスプリングは、ダウン量に応じてそれに見合うバネ定数アップでバランスを保ちますが、ローダウンのみの影響を確認するため、各条件は先程と同一とし、ダウン量は、0~-40mmまで段階的としました。

ダウン量 mm 0 -5 -10 -15 -20 -25 -30 -35 -40
垂直
軸間距離
m 0.308 0.312 0.315 0.318 0.322 0.329 0.337 0.345 0.351
ロール角 deg 2.191 2.222 2.245 2.268 2.299 2.353 2.415 2.479 2.531
条件:横加速度0.5G
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ローダウンによりサスペンションアームの取付位置が下がるので、アーム角度が変化します。このサスペンションでは、ロールセンターの位置は、右図のようにロールが進むと、標準車高車と比較して、より大きく斜め下方へ移動します。つまり、垂直軸間距離の変化が大きくなるのです。
で、それぞれの垂直軸間距離を実験などの結果をもとに設定した上で、先程の公式に従って、ロール角を算出してみました。

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右図は、その関係をグラフ化したものです。ダウン量が増えるに従って、垂直軸間距離が長くなり、ロールモーメントが大きくなり、ロール角度も大きくなってしまいます。重心を下げたとしても、サスペンションの形式やレイアウトによっては、ロール角が増える傾向にあることを覚えておいてください。


■現実的なチューニングの効果の検証
次は、この車に対し通常のチューニングのようにローダウン(車高-20mm)とバネ定数アップを同時に施し、その効果を計算します。装着アイテムは、共にバネ定数をアップしたローダウンスプリングとスタビライザー(前・後)です。基本的な計算は、先ほどの公式にそれぞれの設定値を反映させるだけですので、その結果のみを比較することにします。


<チューニング内容・バネ定数アップ> ※共にホイール位置
品目 ローダウンスプリング
(車高-20mm)
スタビライザー 合計
前輪 13308N/m(140%) 19344N/m(170%) 32652N/m(156%)
後輪 16232N/m(120%) 14115N/m(200%) 30347N/m(187%)
合計 29540N/m(128%) 33459N/m(237%) 62999N/m(169.8)
※バネ定数のカッコ内の%は、チューニング前比率です。

<ロール剛性、ロール角のチューニング前後の比較>
チューニング後 チューニング前 変化率
前輪ロール剛性 36246 N・m/rad 23183 N・m/rad 156.3%
後輪ロール剛性 33687 N・m/rad 18001 N・m/rad 187.1%
合計ロール剛性 69933 N・m/rad 41184 N・m/rad 169.8%
垂直軸間距離 0.311m 0.308m 100.9%
ロールモーメント 1477N・m 1463N・m 100.9%
ロール角 1.264deg 2.191deg 57.7%
条件:横加速度:0.5G
※バネ定数のカッコ内の%は、チューニング前比率です。

計算結果から、156.3%~187.1%のバネ定数アップ(トータルでは169.8%のロール剛性アップ)に対して、ロール角が57.7%に低下していることが分かりました。 このように、ロールのチューニングは、ロールセンターの移動軌跡を決めるサスペンションアームのレイアウトなど、ベースとなる車の基本設計による影響が大きく、後から容易に変えることはできません。特にスプリングのバネ定数アップは、そのアップ率ほどにはロール角を下げられず、乗り心地や路面への追従性の悪化という弊害を伴う懸念があります。チューニングを楽しむためには、まず素材となるベース車の選択がいかに大切かということが、以上のシミュレーションでご理解いただけたと思います。


■Gの変化によるチューニングの効果の検証
最後に上記の各条件での横加速度を変えたらどうなるか、その時のロール角をグラフ化しておきます。前項でシミュレートした「ロール剛性アップ」のみの場合、「ローダウン」のみした場合も併記しましたので、それぞれのロールの変化が一目瞭然です。いずれもほとんど横加速度に比例したグラフに見えますが、実際は、前項までに説明したロールセンターの移動による影響で、最大ロール角時に数%程度の増加が生じています。

※クリックすると拡大画像が立ち上がります。ステアリング特性別の旋回姿勢

参考までに補足すれば、ロードスター(NC)の実車は、0.5G時に2.20degですので、ここで扱っている標準車とほぼ同じ傾向です。また、ここで設定した車の場合は、サスペンションレイアウトの関係で、ローダウンによるhsの増加の悪影響が強めに出ています。
皆さんが、馴染みやすいように、横軸のGを速度(半径50mの定常円旋廻時)に換算したロール角もグラフ化しました。横加速度は、速度の2乗に比例しますので、より直感的にイメージできると思います。

ロール角度の計算は少し乱暴なところはありますが、0.5Gで2°程度という数値は、実際の車で体感する通常レベルの範囲です。

※クリックすると拡大画像が立ち上がります。ステアリング特性別の旋回姿勢

ひょっとすると、もっと大きくロールしているものと思っていた方もいるかと思いますが、ロール剛性のアップによる効果を含めて、物理的にはこんな程度なのです。数字的には微細な角度変化を、ぐらっと傾くように感じるか否か…それが人間の動的感性の問題だと、だから重要なのだというのが、このゼミ全体のテーマであることは言うまでもありません。
以上、今回の講義も文系の人にとっては取っつき難い内容になりましたが、数式とは「モノの考え方を伝える最も確実な言語形式」だと言われます。絶対値はともかく、「どうしてそうなるか」という理屈をご理解いただいて、単なるクルマ好きのレベルを超えた「知的なチューニング」にお役立ていただけるよう願ってやみません。

さて、次回の講義は、ロール剛性を更に掘り下げてみようと思います。
ロール剛性は、タイヤを路面に押しつける力の加減とも言い換えることができます。前輪と後輪に異なるバネ定数のサスペンションスプリングを装着した場合、細かい条件を無視すれば、バネ定数の高い方に大きな荷重を受け持ちます。つまり、ロール剛性はタイヤのコーナーリングパワー特性(CP)に影響し、ステアリング特性と密接な関係にあるということです。 今回、疑問に思われた方もいらっしゃると思いますが、低重心化によるメリットも解説する予定です。お楽しみにお待ちください。