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チューニングを楽しむための動的感性工学概論 §10


サスペンションの「乗り味」を楽しむための、チューニングの基本レシピ。

今回はサスペンションの具体的な仕様について考えてみたいと思います。その自動車工学的な要点は、一般的に「乗り心地」と「操縦性」のバランスだと言われますが、同じことを感性工学的に表現すれば「乗り味」の創造ということになります。自動車としての性能の良否としてではなく、乗る人の感性から見て美味しいと思われる「味」を作り出そうという意味です。そのレシピの対象になる主な食材は、車高(ストローク)、スプリングレート、ダンパー減衰力の3点です。それらの調理の仕方を変えると、乗り味はどのように変化するか…それが今回のテーマです。先ずは、いつものように一般的な自動車工学から入りますが、基礎的な事柄を理解していないと、チューニングに応用が利きませんのでお付き合いください。

1.車高設定の条件は何か

量産車では、乗り心地やチェーン装着への配慮から、車高に大きめのマージンがとってあります。しかし、現代の道路環境では、多くの場合、その割合は過剰になっていると思います。スタイリング的には低い方がかっこいいですし、操縦性には低重心が効きます。だから車高は低いほどいいのです。条件はありますが、車高を下げればロールモーメントが減少し、ロール量も減少します。ロール量が減れば、旋回時に車の安定感が増して、しっかりとした乗り味となります。逆に車高を上げれば、ロールモーメントが増加し、ロール量も増えて、運転者の不安感も増すこととなり、乗り味もグラグラとした緩慢さを感じるでしょう。ピッチング方向も同様です。だから、車高は、現実的な使い勝手が許せば、可能な限り低い方がいいのです。

B360トラック

ただし、車高を低くすると、どうしてもタイヤやサスペンションアームのストローク(上下に動ける距離)が十分に取れなくなり、車体に接触しやすくなります。悪路走行や高速でのコーナリングを考えると、そのような事態は絶対に許容できません。ですから、ここで、車高を低く設定するための限界、またはそのための条件が出てきます。それは、アームの動ける距離を短く制限すること…つまり、それ相当にスプリングを強化する必要があるのです。そうすると、それに対応するダンパーの仕様も変わります。個別の設定による変化については後述しますが、かくして、車高の変化はサスペンション全体の仕様に影響し、その乗り味をさらに変化させることになります。ですから、車高の設定は、自動車の基本設計の一部と考えるべきだと思います。量産車をチューニングする場合には、これらの関係をきちんと配慮することが重要です。過剰なローダウンは、ストローク不足につながり、乗り心地・操縦性ともに悪化させる可能性を秘めているからです。特に-40mm以上といった車高低下は、コンプレッション側のストロークが確保し難いため、非常に硬いスプリングを採用しない限り、最終的な安全装置であるバンプストッパーの縮みを多用して走ることになりかねません。中には、バンプストッパーを切断してストロークを確保すると言った手法もあるように聞きますが、おそらくは論外でしょう。ダンパー内のピストンが底つきする可能性もあります。先に「車高は可能な限り低い方がいい」と言いましたが、量産車のチューニングでは、特別に全体を設計し直した場合は別にして、あくまでも「量産車の安全側にとられたマージンの範囲内」で行うのが原則です。


2.スプリングレートを決める要素は何か

スプリングは静的なバネ上の車体重量(1G)を、狙った車高に保つのが基本の仕事です。その上で、路面からの振動の吸収・乗り心地、走行状態においてのピッチ方向の動き、すなわちブレーキング時のバンプ、加速の時のスクォート、そして、左右のロールにおいて、車の乗り味を決定づける重要な働きを担っている部品です。その性能を決めるのが、スプリングを1mm縮めるために必要な力、一般的には硬さと表現されるスプリングレート(バネ定数)です。
設計時には、自動車工学の常識として、最大荷重が5G増加した場合を想定したスプリングレートを算出します。最悪の場合は、それぐらいの入力が考えられるからです。例えばサスペンションアームのストロークがバンプ側で90mmなら、スプリングとバンプストッパーの力でそれ以上は動けなくするのです。バンプストッパーはゴムや樹脂製の弾性体で、スプリングが対応しきれない時でも最低限の弾力を残しつつ、最後は完全に剛体となってストロークを規制する部品です。できればスプリングの領域からストッパーの担当領域に移る時の硬さの変化が少ないことが理想です。

※クリックすると拡大画像が立ち上がります。バンプラバーの役割

で、具体的な計算です。1輪荷重5G(1輪バネ上荷重250kgの場合1250kg)とは、言わば非常事態の設定ですから、大雑把には0.5Gがスプリング、4.5Gがバンプストッパーの受け持ちというイメージです。例えば、1輪荷重が306kgで、90mmのバンプストロークの中でスプリングがストッパーにあたるまでのストロークを60mmとした場合、必要なスプリングレートは以下のように算出できます。

スプリングが担う荷重は
「306kg×0.5G=153kg×9.8m/s2=1450(N)」
ですから、1450Nを60mmのストロークで割れば
「1450÷60=24.2(N/mm)」となります。
N=ニュートン:重さの単位であるkgに重力加速度Gを掛けて変換した力の単位。

実際にスプリングレートをチューニングする際は、上記の計算で求めた数値以上であれば、基本的な問題はありません。ドライバーの感性で、硬い乗り味が好きな人は硬くすればいいし、逆な人は柔らかくすればいいのです。あるスポーツカーの例で言うと、前輪スプリングレートは量産仕様で34.2N/mmですが、それを11%アップして38N/mmに上げると、基本的なキャラクターはあまり変わりませんが、スポーツ性が高まり、乗り味は硬質になります。さらに、108N/mm(量産比316%)まで引き上げた場合は、かなりの高剛性感が感じ取れ、ロールをしないような乗り味となります。
ただし、ストロークがない状態で硬いスプリングを使うと、しなやかなばね特性が得られないために、乗り心地は悪くなり、唐突な荷重移動が起こるなど、操縦安定性をも損なう傾向になります。荒れた路面を走行すると、車が飛び跳ねて危険な場合もあります。ですから、ストロークのとり方やダンパーの組み合わせなど、トータルな設計で適切に対応する必要が出てきます。単にスプリングレートだけを極端に上げたチューニングは、厳に慎むべきだと思います。チューニングの目安としては、操縦安定性と乗り心地のバランス考えた値、つまり好みの「乗り味」が実現できる硬さと言うことになりますが、その推測は難しいので、チューナーのカタログなどで十分検討し、装着後のイメージを確かめるようにしてください。


3.ダンパーの減衰力を決める要素は何か?

スプリングレートと並行して、ダンパーの減衰力も決めなければなりません。スプリングは、振動を始めると、外力が加わらない限り一定の振動数で振動を続ける性質を持っています。だから、車体が揺れ始めたら、いつまでも振動し続けることになります。この振動を適切に収束させるのがダンパーの役目です。ダンパーピストンのオリフィスを粘性のあるオイルが通過する際に発生する抵抗によって、スプリングの運動エネルギーを熱エネルギーに変換し、それを冷却することで大気中に放出する仕組みになっています。要するに、ダンパーはスプリングの動きを遅くするわけですから、その効果は、単に振動の抑制に留まらず、ロールやピッチの速度制御にも活用できます。この2点に着目すると、ダンパーの性格づけが車の乗り味に大きく影響することがお分かりいただけると思います。下図は、ダンパーの性能曲線です。縦軸に減衰力N(ニュートン)、横軸にピストン速度(m/sec)をとって、ダンパーの伸び側(リバウンド)と縮み側(コンプレッション)の減衰力の変化を表したものです。

※クリックすると拡大画像が立ち上がります。B360トラック

これを見れば、一目でそのダンパーの性格が分かるのですが、それぞれの車の、それぞれの乗り味を作り出すには、この減衰力値をどのように設定すればいいのでしょうか。重量もスプリングも、使用目的も異なるのですから、単なる減衰力の数値の比較では意味がありません。
そこで、先ずは基本的な自動車工学です。バネ上質量とスプリングレートが決まれば、ダンパーのピストンスピードが1m/secの時のその車の臨界減衰力が理論的に決まることが分かっています。下記がその計算式です。

臨界減衰力
k=スプリングレートの総和  m=バネ上質量

※クリックすると拡大画像が立ち上がります。B360トラック

この臨界減衰力とは、振動をするかしないかを決める臨界値(ギリギリの値)と考えて下さい。この減衰力に設定すれば、最短の時間で振動を収束することが可能になるのですが、車の乗り心地はとても硬いハードになって、使い物にはなりません。ですから、現実の設計は、減衰力がこの臨界値以下で、その何%ぐらい(減衰比)にするかが、ひとつの目安になります。

ここからは少しややこしい算数になります。ダンパーの減衰力は、微低速域を除けば、ほぼピストンスピードに比例しますから、減衰力=C(比例定数)×V(ピストンスピード)と考えることができます。

※クリックすると拡大画像が立ち上がります。B360トラック

この比例定数を減衰係数と言います。この式に先ほどの臨界減衰力を当てはめると、以下の関係が見えてきます。
臨界減衰係数
つまり、単位は違いますが、臨界減衰力=臨界減衰係数というわけです。
ですから、その車の臨界減衰力は図の点線のような直線で表すことができます。この値と実際のダンパー減衰力(図の実線)との比率が減衰比です。これが得られれば単純な減衰力の絶対値の比較ではなく、その車にとってのダンパーの硬さという感性的なデータを比較することができるのです。右の図でその関係をイメージしてください。

次は、下記のスペックのスポーツカーを例として、具体的に考えてみます。計算を単純にすべく、ここでは前輪だけを対象に試算しました。

  ・前輪バネ上重量=6017(N)
  ・Frスプリングレート=34.2(N/mm) 
  ・Frリバウンド減衰力=1630(N)
  ・Frコンプレッション減衰力=1330(N) 
  ※減衰力=0.3m/sec時 

先ずは臨界減衰力の計算です。
  臨界減衰力
   ※単位系を揃えるためにスプリングレートを/mm単位から/mに換算しています。

次にダンパーの0.3m/sec時における臨界減衰力を計算します。単純な比例計算です。

   0.3m/sec時の臨界減衰力=40574×0.3=12172

続いて0.3m/sec時のダンパーの減衰力の計算です。
左右2輪の総和ですから、リバウンド側とコンプレッション側を足し算した数値に2を掛けます。

   0.3m/sec時の減衰力=(1630+1330)×2=5920

従って、減衰比=5920÷12172=0.49=49%となります。

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では、この49%(0.3m/sec時)という減衰比をどう評価すればいいのでしょうか。ちなみに、乗用車では40%付近が良いとされていますが、この車は、そのハンドリング性能を評して、オン・ザ・レール感覚と呼ばれておりました。その乗り味は、非常にシャープであり、減衰比が30%程度のファミリーカーのフワフワ感のある乗り味とは、まったく異なります。意図した乗り味の実現と減衰比の関係を示す好例だと思います。
上記の計算をピストンスピードごとに繰り返すと、ダンパーの減衰比の変化が見えてきます。右図がその実例です。ここまでやると、ダンパーの個性の違いが、ますます際立って見えてくると思います。

量産車のチューニングでは、詳細なスペックを入手できないかも知れませんが、ダンパー性能を公表している場合もありますから、興味のある方は試算してみてください。乗り味の変化の程度を知る手がかりになるはずです。


4.伸び側/縮み側、低速域/高速域など、ダンパー特性の設定

大まかな減衰力値を導き出したら、次はリバウンド(伸び側)とコンプレッション(縮み側)の減衰力を変える味付けをします。コンプレッションによる「突き上げ感」や、「ハーシュネス(荒っぽさ)」の影響を抑える必要があるからです。そのために、減衰力値の総和を変えず、縮み側はソフトに、伸び側はハードにと、配分し直すのです。例えば、ピストンスピード0.1m/sec時の減衰力の総和2000Nを、伸び側1500N、縮み側500Nとします。何故、総和は変えないかというのは、伸び縮みの振幅のエネルギー吸収を維持するためです。乗り心地や突き上げ感を回避するために縮み側の減衰力だけを抑えてしまえば、減衰力の絶対値が下がってしまい、減衰比も低下し、ロールやピッチング時のエネルギー吸収の総量も下がってしまうのです。

※クリックすると拡大画像が立ち上がります。B360トラック

もう一つの重要な味付けは、ピストンスピードによる特性の変化です。コーナリングの初期応答性やS字の切り返しなどは、0.1m/sec以下の低速域の減衰力がキーポイントとなります。ですので、ダンパー性能線図の0~0.1m/secの領域の減衰力を急激に立ち上げると、操舵の初期の応答性に好ましい影響を及ぼします。舵を入れて、ロールの初期段階でダンパーの減衰力がジワーと効いて、入力ステア角に対してリニアな反応となり、ヨーとロールのつながりの良い乗り味になるのです。
ピストンスピードの高い領域では、感性評価が重要になります。ピストンスピードの0.3~0.6m/secといった領域は、言わば穴に落ちる時の様な、日常ではあまり使用しないピストンスピードですが、この評価によって、突き上げ感とエネルギー吸収の特性を確認します。ガツンとした突き上げ感をどの程度に抑えるかが判断のポイントとなります。
量産車のチューニングでは、ダンパー単独の評価はしにくいのですが、ピストンスピードの高い領域では、むやみにダンパーを硬くしない方が良いと思います。特にスプリングのレートを極端に上げた場合は、減衰比が低くなり過ぎない程度に柔らかめにします。スプリングレートのアップによる突き上げ感をダンパーの減衰力ダウンで補正するというチューニングも、全体のバランス次第では、ロール剛性の高いどっしりとした乗り味として、賞味に値すると思います。
量産車のダンパーを変更する場合は、単に減衰力の大きさだけを求めることなく、このような微細な味付けや塩加減を加味して、それぞれのチューナーの考え方を吟味することが大切です。


5.もしも、私自身のためにサスペンションをチューニングするとしたら

自動車メーカーは、例えスポーツカーでも、世界中の多様なユーザーの使い勝手に支障が出ないように、慎重に仕様を決めています。だから、車好きのみなさんが、自分好みにチューニングを施す手段が必要になる訳です。私が開発を手掛けたマツダのスポーツカーには、アフターマーケットに多くの選択肢があります。しかし、その中には開発者として、首をかしげたくなるものが存在することも事実です。どれを選ぶかはご自身の目的や財布と相談するわけですが、開発者から言わせていただければ、ベース車両のDNAを生かしたチューニングを楽しんで欲しいと思います。

B360トラック

ストリート中心であれば、スプリングは標準仕様の110~130%に留め、減衰力は、スプリングレートを上げた分、コンプレッションを85%程度に下げて、かつ、リバウンド側を115%+αとして、減衰力の総和が標準仕様を下回ることなく、減衰比は50%程度にセッティングします。さらに車高は、重心を下げることによる操縦性の向上と実用性を勘案して、-15mmあたりがベストと考えています。多少の調整は、もちろん、個々のオーナーの選択に任せます。

B360トラック

実は先日このような仕様を実車で評価する機会が有りました。私自身が開発を手掛けた車種を含め、マツダスポーツカーのストリートチューニング(普段は日常的に使用するが、たまに高速道路のクルージングで運転を楽しむためのチューニング)にトライしたのです。
オートエクゼの協力もと、前述した仕様に近い数種類のサスペンションを試作してテストコースに持ち込み、丸2日間テストを繰り返してセッティングしたこの車高調整式サスペンションキットは、舵を入れた時に、ロール剛性が確保されており、ジワーっとロールして行き、弱アンダーステアーを保ちながらしっかりと、安定したコーナリングが可能なものです。ステアリングとヨーの発生がリニアに感じ取れ、しっかり感があり、あくまでも乗り心地は確保されており、腹にズンと響くような突き上げ感のないセッティングだと思います。

また、車の動きが、より積極的に運転を楽しみたいという人達の期待に適った乗り味で、動的感性・人馬一体感をより深化させることができたと思います。オートエクゼの新商品として近日中にお披露目するそうなので、皆さんにもその「乗り味」を体感していただければ幸いです。